著者;大塚邦明(東京女子医科大学名誉教授)
出版社:春秋社
2014年4月発行
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著者は時間医学・老年医学を専門とし、不眠の原因を睡眠に関連する書籍では珍しい「時間医学」という比較的新しい医学の立場から解説しています。
※時間医学
時間医学とは、体内時計を考慮して病気をとらえ、体内時計を応用して治療していこうとする医学です。
体内時計を考慮して病気をとらえる『時間医学とは』nemgym
地球上に生命が誕生してから太陽と生物は密接な関係を持っています。
そして動物も植物も進化してきましたが、1日のリズムは変わりありません。
目次
1 眠りと体内時計
「生体リズム」いわゆる体内時計の話が書かれています。
地球の自転のように人間も体内機能が「自転」していて、朝に太陽の光を浴びることでその日の眠りのスイッチが入ります。
たとえば、人間のからだの時計は、朝起きて15時間経つと眠くなるようにセットされています。朝に明るい太陽光を浴びることで、その日の眠り時計のスイッチが入るのです。生体リズムを整えて、いろいろな病気から身を守るためには、夜の深い眠りが必要条件です。
眠りと体内時計を科学する P.15
朝起きれない人の中では、夜眠れないという人というのは多いのではないでしょうか?
ここでは、夜眠れないメカニズムについても言及されています。
じつは、眠れない時間というのがあります。朝の目覚めから12時間~15時間過ぎがこれに相当します。<中略>朝7時に起きた人は、夕方7時に床に入っても、なかなか眠れないでしょう。やっと眠れるのは、夜の10時ごろになるはずです。この不思議な現象がなぜ起こるのか、まだわかっていません。生体リズムの謎の一つです。
眠りと体内時計を科学する P.16
2 時計遺伝子とは何か―人間は宇宙とシンクロしている
2章では、地球と太陽といった天体と遺伝子や進化に関連した内容となっています。
体内時計の周期について言及されています。人間(約25時間)とマウス(約23時間)と違いはあるものの、どちらもずれている理由は解明されていないと書かれていますが、この書籍では「のりしろ」と考えられています。体内時計(サーカディアンリズム)の周期については諸説あります。
地球上の生物は、遅くなる自転に適応し、生体リズムを保持するために1時間ののりしろを持つという選択をしました。光を浴びることにより、生物時計の針を地球の自転の時刻に合わせるという仕掛けを遺伝子の中に組み込んだのです。約1時間のずれは、生体リズムを保持していくための工夫だったのです。
眠りと体内時計を科学する P.39
その他、体内時計が老化するといった話題も挙げられています。
「老化が進むというのは、生体リズムの老化も進む」と指摘し、いくつか具体例が挙げられていますので紹介します。
- 生活にメリハリがなくなる
メラトニンや性ホルモンの分泌低下が関係。活動と休息、体温の変動、水分補給などの行動リズムが昼夜を通して不明瞭に。 - 早寝早起きになる
体内時計の針が少し先に進むのが関係。 - 1日が短く感じる
生体リズムの周期が短くなることに関係。75歳をすぎると24時間程度にまで短くなる。 - 生体リズムが太陽と同調しなくなる
光同調(太陽の光を利用して体内時計の針と地球の針とのずれを調整する働き)が加齢によって衰えることに関係。
海外旅行の帰国後も時差ボケが長く続き苦しむなどの症状がある。
高齢のマウスを使った実験では脳の体内時計の信号が細胞の時計まで届かないことが観察されており、
逆に若いマウスの脳の体内時計を高齢のマウスへ移植した場合は細胞に明確なリズムが表れ、寿命が伸びたそうです。
このようなことから体内時計の機能は睡眠はもちろんですが、寿命にも密接に関係しているといえます。
3 眠りと夢
レム睡眠、ノンレム睡眠のメカニズムから始まり、なぜ人間は夢をみるのかを探る章となっています。
夢に関する様々なエピソードが紹介されています。
4 現代人はなぜ眠るのに苦労するのか
エジソンが電球を発明してから、夜でも人間が活動することができるようになりました。
交代制勤務や深夜労働は電球の発明以前は無かった勤務形態といえます。
本来の生体リズムから大きくかけ離れた生活スタイルです。
交代制勤務の健康リスクについては一度目を通して欲しい事柄です。
産業医科大学の久保達彦博士は、交代制勤務に従事する日本人の健康状態を詳しく調べています。その報告によれば、交代制勤務を始めると血圧はすぐに高くなり、糖尿病になるリスクは2倍も増えてしまい、がんにも罹りやすくなります。女性の乳がんの頻度は1.5倍、男性の前立腺がんの頻度は3倍でした。この事実は規則正しい生活リズムこそ健康の源であることを教えています。
眠りと体内時計を科学する P.86
夜型人間は朝型人間になれない?
P.87 「夜型人間は朝型人間になれない?」の項では、夜型、朝方のチェックするためのセルフアセスメントが掲載されています。
このような質問が19項目あり、回答することで明らかな朝方~明らかな夜型の5段階から自己採点ができます。
夜型の人が朝型に変わることができないかというのは大きなテーマだと思います。
本書では同居年数が長いほど睡眠習慣類似するのではないかという仮定のもと、同居年数平均17年間の夫婦225組を対象にした調査では、長期間一緒に暮らしていても入眠時刻と覚醒時刻が類似する傾向が得られなかった(朝型・夜型の指向性がもっとも睡眠習慣に影響を及ぼしていた)という結果となっています。
また、夫婦間の睡眠については、男性は睡眠時間が長く、女性に不眠が多いといった男女の睡眠の性差についても触れられています。
生理の痛みによって夜寝付けない、昼間眠くなるといった女性ならではの睡眠の問題のほか、ホルモンの影響もあるため、睡眠の指向が違う女性と暮らす男性はこの点についても気に留めておきたいところです。
若返りの泉メラトニン
P.106からはメラトニンが生体リズムを守る三要素として紹介されています。
- 太陽光
- 食事
- メラトニン
メラトニンは睡眠の質を改善し、寝つきをよくする 脳内のルモンです。別名、睡眠ホルモンとも呼ばれます。
全身の血管に働きかけ、血圧を下げ、夜の隠れ高血圧を改善します。
心臓と、心臓の血管に作用して昼間に傷ついた部位を修復するだけなく、脳梗塞を予防します。骨に働きかけ、骨粗鬆症も直します。また自律神経を調節し、免疫機能を賦活し、発がんを抑えます。そして老化の速度を遅らせます。
そのほか「睡眠時無呼吸症」についても1節を割いて紹介されています。
5 眠りは変化する
人は成長し年老いていきますが、眠り方も年齢によって変化します。
ここでは乳児、幼児、学童児、思春期の青少年、社会人、中高年、認知症の人と様々な各ライフステージごとの解説がされています。
特筆すべき点は思春期と中高年の項です。
思春期では成長ホルモンの分泌で睡眠の欲求が高まるとあり、睡眠時間は平均7時間は必要とあります。
中高年においては不眠の割合が増えていくことなどが触れられています。
壮年期に5人に1人といわれる不眠は、60歳を超えると頻度が増えて3人に1人にみられるようになります
眠りと体内時計を科学する p.136 中高年の眠り
6 よりよい休息のススメ
睡眠を充実するためのノウハウが紹介されています。
中でも睡眠薬を使用することに関して言及されている節があります。
不眠症の原因は多様ですから、基本的に、不眠症=睡眠薬と安易に考えるのは誤りです。生体リズムの乱れが要因の場合は、朝の光をあびること。夜の睡眠環境を整えること。朝食を抜かないことと規則正しい食習慣。これが改善策です。
眠りと体内時計を科学する P.158 睡眠薬のメリット、デメリット
睡眠薬は医師の指示に従って正しく服用すればアルコールよりもはるかに安全といった記述もあります。
しかし、ここでの解説では安全としながらもその反面、正しい服用方法が守れないと依存症になる可能性も含んでいます。
そのほか、朝食の重要性についても紹介されています。
脳のエネルギー補給に朝食は欠かせません。眠っている間に使い果たしたブドウ糖を補給する意味で、朝に糖質(米飯やパン)をとることは重要です。規則正しい朝食をとる習慣があると朝食の1時間前頃から、胃腸の動きが活発になってきて目覚めもよくなります。
眠りと体内時計を科学する P.163 腹時計を味方につける
朝食を食べない子どもは学力成績が悪い、体力が低いという文部科学省の調査結果があるとしています。
さらに朝食を摂ることで得られる栄養刺激は体中の体内時計の針を合わせる作用もあります。
食べるものも「旅館の朝食」のような品目が多く、温かい食事が整えるそうです。
3つの時計(親時計、腹時計、松果体時計)が中心となり互いに作用していると解説しています。
- 親時計(体内時計・中枢時計)
- 腹時計(大脳、胃腸・肝臓・脂肪組織などにあると議論されており解明されていない)
- 松果体時計(外界の光を目から取り入れメラトニンを分泌、血流にのってからだの生理機能を高める)
- 子時計(末梢時計。からだにある数十兆もの細胞の時計)
眠ることでメラトニンを放出し、親時計の働きを補助
これらの時計から子時計に指令が渡っています。
「私達のからだは、まるで時計の集まりのようなものなのです」と表現されているようにたくさんの時計がお互いに影響しあっていることが解ります。
そして、メラトニンを活性化させるためには朝の太陽光が必要です。光の強さと持続時間が重要です。
本書では朝に光が浴びられず、それを繰り返すと生活のリズムがくずれると指摘しています。
体内時計のズレが気になる方は光目覚まし時計を検討してみてはいかがでしょうか。
光目覚まし時計に関しては以下のページで解説しています。
まとめ
時間医学という観点からみた本書は生活のリズムを正したい人にはオススメの一冊です。
また若者から高齢者までと幅広い年齢層を対象にしているため体内時計の働きを理解すれば長く生活に応用できる内容となっています。
本書は2014年に発行されたものですが、時間医学の見地からでもまだ解明されていない睡眠のメカニズムについても触れられています。
このようなことから、睡眠との関わり方としては常に新しい情報に目を通すことで知識をアップデートし、生活に応用していくことが大切といえます。
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